旅の深呼吸

皆さんこんにちは。GKT理事の宇野浩です。ご自宅で過ごす時間が増えていらっしゃると思いますが、今日は、一緒に旅した気分になっていただけたらと、私がずっと続けている「旅」について、少しお話したいと思います。

2006年から続けてきた全国の旅。思い立って40過ぎから大型バイクにまたがり、中年ライダー気取りで走破した距離は延べ2万キロに及びます。

東京から青森までの800キロ。連絡船で4時間、函館から稚内まで650キロを走行し、そして日本最北端の稚内宗谷岬をスタート地点として、順次北から南へ。そして、沖縄先島諸島、南波照間までを走り抜けました。

ただし、やみくもには走っている訳ではありません。ポケットには司馬遼太郎の紀行文集『街道をゆく』をしのばせながら、司馬が歩いた諸街道を、本に沿って忠実に足跡をたどっているのです。司馬が観た風景、司馬が出会った人々、泊まった宿屋泊まった部屋へ自分も訪ねて同じように寝てみます。司馬が見て感じ、伝えようとしたものはなんだったかを、その場で感じ取る旅にしたいのです。

私たちは日常生活の中で、特別意識せずに過ごしていること、身についていることがあります。たとえば、なぜある行為を「恥」だと感じるのか、「侘び」の心根はどこにあるのかなど。それを理解するヒントが『街道をゆく』にはあります。また、代々大切に守り受け継いできたこと、長くにわたり祈りを続けてきた場所、伝統として磨き伝えられてきた技なども多く紹介されています。『街道をゆく』の中にそのヒントが沢山見いだされます。一方地場では、歴史を作ってきた人々の心に触れることもできます。オホーツクモヨロ貝塚を発見した考古学者の米村喜男衛翁、探検家の最上徳内と松田伝十郎、思想家の秋田安藤昌益、東洋史学者の内藤湖南、民俗学者の菅江真澄や上勢頭亨(かみせど)など、それは綺羅星のごとくに尽きません。その大きな思想、知識が育まれた風土や土壌はどのような姿であったか、その原風景に立って思いを馳せるのが楽しみのひとつです。

また『街道をゆく』をたどることで、3つのキーワード、米・鉄・禅に行き当たります。この視点で読んでみると、司馬はキーワードから独自の視点で歴史・地理・人物について考察し、日本人の「元」、日本の「祖型」を3つの言葉から解き明かそうとしたのではないかと思うのです。

現代に生きる私たちが何故その様に振舞うのか、何故そう感じるのかなど、私も司馬のように「心のありか」を自分なりに感じ取ることをライフワークとして、今年もその先の『街道をゆく』たどる旅を続けています。

〔GKT 宇野浩〕